釜中の魚と轍鮒の急

漢字多めの雑記ブログです

20年前、私は姉に告白しました

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幼少期の私にとって、3つ年上の姉は恐怖の存在であった。

 

 

 

 

姉とは昔よくごっこ遊びをしていたが、私が姉に怒られて遊びが中断になるのがお決まりだった。

 

 

 

その原因は私が何かやらかしたこともあるし、姉が理不尽に怒り出したこともある。

 

 

 

前者の例としては、歌手ごっこをしていたとき、姉があまりにも気取って歌うので私がつい笑ってしまい姉に喧嘩を売ったこと。

 

後者の例としては、看護師(当時は看護婦と呼ばれていたが)ごっこをしていたとき、私が真面目で勤勉な看護師という設定でひたすら医療の勉強をする振舞いをしていたのを面白く思わなかった姉が怒ったこと。

 

 

 


・・・・・・こうして振り返ると、私に協調性が欠けていたようにも思えるのだが、それはさておき。

 

 


いずれにせよ、幼稚園児頃までに限って言えば、私が姉に怒られても歯向かうことはなかったと思う。

 

 

 


怒ったときの姉は、とにかく冷酷だった。

 


普通の子どもであれば声を荒らげたり叩いたりと、もっと感情的な怒りの意思表示をするものだが、姉は違っていたのだ。

 

 


侮蔑のこもった非情な目で私を見て、「もう知らない。」と無慈悲に言い放つタイプの怒り方だった。

 

 


姉が機嫌を損ねたときの張り詰めた空気ほど居心地の悪いものはなく、姉ほど恐ろしい人間はいないと思っていた。

 

 


当時は寝るとき母・私・姉の並びで川の字になっていたが、姉の方を向いて眠ると決まって悪夢を見たので、母の方を向いて眠るようにしていたほどである。

 

 

 


さて、ここからが本題だ。

 

 


もう20年ほど経つ。私が4,5歳頃で、姉が小学校低学年の頃の話である。

 

 

 

私と姉は当時大人気だったアニメ「とっとこハム太郎ごっこをすることにした。

 

 

 

姉はヒロインポジションであるお嬢様キャラの「リボンちゃん」役を真っ先に選んだ。

 

 


そして、姉は私にガキ大将キャラである「タイショーくん」役をするように命じた。

 

 

本当は可愛らしい赤ちゃんハムスターの「ちび丸ちゃん」役をやりたかったが、姉に逆らうことができなかった私は渋々タイショーくん役を引き受けた。

 

 


実際のアニメ「とっとこハム太郎」において、タイショーくんはリボンちゃんに片想いしているという関係性であった。

 

 

 

マセた子どもだった姉はリボンちゃんとタイショーくんの関係性をハム太郎ごっこで再現し、擬似的にでもモテる女を体験したかったのであろう。

 

 


しかし、あまり乗り気でなくどこかつれない態度の私(タイショーくん)に腹を立てた姉(リボンちゃん)は、私にこう命じた。

 

 

 

 

 

「タイショーくんはリボンちゃんのことが好きなんだから、告白してよ!」

 

 

 

 

 


そう迫られたとき、姉の息をもろに嗅いでしまい、その口臭と告白を強要する圧の強さのダブルパンチに私は怯んだ。

 

 

 


しかしながら、やはり不機嫌になった姉には逆らえない。

 

 

 

私は嫌でもタイショーくんとして、リボンちゃん役の姉に告白をする他ないのだ。

 

 

 


恐怖にぐっと耐えながら、私は意を決してタイショーくんになりきり、姉に「告白」をした。

 

 

 

 

 

 

 

「お前の息は・・・・・・、臭い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は姉に、思わず「好きであること」ではなく「息が臭いこと」を伝える告白をしてしまった。

 

 

 


"意向に沿わない形で姉の命令に従う"という行為が、私が姉にした初めての必死の抵抗だった。

 

 

 

 

一歩踏み出した私だったが、その「告白」の後どうなったかは記憶に残っていない。

 

 

 

「告白」を受けて姉がどんな反応をしたのか、今となってはなかなか興味深いものの、残念ながらどうしても思い出せない。

 

 

 

鮮明に憶えているのは、ただあの頃の姉の息が強烈な臭いだったことだけである。

 

 

 

 

あの「告白事件」から少し時が経ち、私が幼稚園を卒園する頃には家族が増え、私と姉は年の離れた妹を一緒に可愛がるようになった。

 

 

 

妹が生まれたことをきっかけに、姉が理不尽に機嫌を損ねることはなくなっていったように思える。

 

 

 

 

姉に対する鬱憤を晴らすような文章になってしまったが、今現在姉のことは身内として普通に好きだ。

 

 

 

 

お互い大人になり、今となっては年に1度会えば多い方だが、姉が帰省した時には子供の頃の話に花が咲くくらいには良好な関係でいる。

 

 

 


ただ、「告白事件」の話をしたことは一度もない。

 

 

恐らく姉は全く憶えていないと思う。

 

 

 

 

でも、それでいい。

 

 

 

「知らぬが仏」ということわざもあるのだ。どんなに仲が良かろうとも私は自ら姉にこの話をする気はない。

 

 

 

 

だが、妹はこの話を知っている。

 

 

 

私にとって妹は姉以上に気が合うので、妹と2人だけで共有している笑い話も多い。

 

その笑い話の1つとして、自分が生まれる前の姉2人に起こった「事件」を、妹は面白おかしく聞いてくれた。

 

 

 

 

しかしやっぱり姉には───姉にだけは、墓場まで持っていく秘密にする予定である。

 

 

 

 

 

 

 

 


(ちなみに当時の姉の息が臭かったのは、恐らく姉は鼻が詰まっていて口呼吸せざるを得ず、口の中が乾燥して臭ったためだろう。
今は姉の鼻詰まりも解消しており、口臭が気になることもない。
姉の名誉のために追記しておく。)